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全ての投票方式に欠点があることの証明「アローの定理」

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欠点がない投票方法は存在するのか?

残念ながら完全な投票方法というものは存在しません。

この記事では、完全な投票方法がないことを、例を挙げてわかりやすく証明します。

こんな人にオススメ
  • 完全な投票がないことを証明してほしい
  • いろんな投票方式を知りたい
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完全な投票方法はない

1951年にアメリカの経済学者ケネス・アローが完全な投票がないことを数学的に証明しました。

これをアローの定理といいます。

アローの定理

アローの定理は「3つの前提」があり「4つの条件」を受け入れた場合、いろんな価値観の人がいる集団で、その集団全員の意見を集めても最善の答えを出すことはできないことを示します。

3つの前提

①好みは推移的である
\(x,y,z\)の3つの選択肢があり、\(x>y\)で\(y>z\)の場合、\(x>z(x>y>z)\)になるということ。ジャンケンは推移的でないものの代表例です。

②きちんと順位をつける
\(x,y\)の2つの選択肢がある場合、\(x>y,x<y\)または\(x=y\)のいづれかの順位をつけなければなりません。

③3人(3組)以上の集団である

4つの条件

①順位のつけ方は自由である
きちんと順位をつければ、どんな順位をつけてもいい。反対にある順位のつけ方を禁止することをしてはいけません。

②賛成するものがいて、反対するものがいけなれば、それは最善になる
\(x,y\)の2つの選択肢があって、\(y\)よりも\(x\)を好む人が数人いて、\(x\)よりも\(y\)を好む人が一人もいなければ\(x\)が最善の選択になる。

③他の選択肢からの影響を受けない
\(x,y,z\)の3つの選択肢があり、\(x>y\)だったとする。このとき\(z\)がどうなろうと\(x>y\)が変わることはない。

④集団に独裁者がいない
集団内にいる人間は全員自分の意志で判断ができる。

「3つの前提」と「4つの条件」はどれも一般的なものですね。
つまり、普段やっている投票が完全ではないということです。
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完全な投票がないことの証明

完全な投票がないことを、反例を用いて証明します。

このようなアンケートをとってみました。

アンケート内容
55人を対象に次のメニューを好みの順番に並べてもらう。
  • ラーメン
  • 寿司
  • 焼肉
  • 唐揚げ
  • ピザ

このアンケートの結果が以下のようになったとします。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司焼肉唐揚げラーメンピザ18人
ピザ唐揚げ焼肉ラーメン寿司12人
ラーメンピザ唐揚げ焼肉寿司10人
焼肉ラーメン唐揚げピザ寿司9人
唐揚げピザ焼肉ラーメン寿司4人
唐揚げラーメン焼肉ピザ寿司2人

では55人に最も好まれたメニューは何なんのでしょうか?

5つの投票方式で結果をだしてみます。

多数決の場合

5つのメニューの中で最も好きなものは何か?と聞き、最も投票数が多かったものが選ばれます。

つまり、1位の投票数が最も多いものとなるため、多数決では寿司が選ばれます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司----18人
ピザ----12人
ラーメン----10人
焼肉----9人
唐揚げ----4人
唐揚げ----2人

決選投票方式の場合

多数決の結果で1位の投票数が過半数を超えていない場合、1位と2位で決選投票を行い、その勝者が選ばれます。

多数決の結果では、寿司が1位で18票です。18/55で過半数に達していません。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司----18人
ピザ----12人
ラーメン----10人
焼肉----9人
唐揚げ----4人
唐揚げ----2人

1位の寿司と2位のピザで決選投票を行うと

寿司:18票
ピザ:37票

ピザが選ばれます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司---ピザ18人
ピザ---寿司12人
-ピザ--寿司10人
---ピザ寿司9人
-ピザ--寿司4人
---ピザ寿司2人

勝ち抜き決選投票方式の場合

1位票が最も少ないものを除外し、再投票を繰り返す方式です。

最初に唐揚げが最も少なく6票なので除外されます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司焼肉唐揚げラーメンピザ18人
ピザ唐揚げ焼肉ラーメン寿司12人
ラーメンピザ唐揚げ焼肉寿司10人
焼肉ラーメン唐揚げピザ寿司9人
唐揚げピザ焼肉ラーメン寿司4人
唐揚げラーメン焼肉ピザ寿司2人

次に焼肉が最も少なく9票なので除外されます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司焼肉-ラーメンピザ18人
ピザ-焼肉ラーメン寿司12人
ラーメンピザ-焼肉寿司10人
焼肉ラーメン-ピザ寿司9人
-ピザ焼肉ラーメン寿司4人
-ラーメン焼肉ピザ寿司2人

3回目はピザが最も少なく16票なので除外されます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司--ラーメンピザ18人
ピザ--ラーメン寿司12人
ラーメンピザ--寿司10人
-ラーメン-ピザ寿司9人
-ピザ-ラーメン寿司4人
-ラーメン-ピザ寿司2人

最後に寿司が18票、ラーメンが37票となり、ラーメンが選ばれます。

パターン1位2位3位4位5位人数
寿司--ラーメン-18人
---ラーメン寿司12人
ラーメン---寿司10人
-ラーメン--寿司9人
---ラーメン寿司4人
-ラーメン--寿司2人

ボルダ投票方式の場合

1位は5点、2位は4点、3位は3点、4位は2点、5位は1点として獲得点数が高いものが選ばれる。

計算の結果、焼肉が選ばれます。

メニュー獲得点数
寿司127点
ピザ156点
ラーメン162点
焼肉191点
唐揚げ189点

総当たり投票方式の場合

全ての候補を1対1で比較して勝者を決めます。

その結果唐揚げが選ばれます。

寿司ピザラーメン焼肉唐揚げ勝った数
寿司-××××0
ピザ-×××1
ラーメン-××2
焼肉-×3
唐揚げ-4

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結果のまとめ

5つの投票方式の結果はこのようになりました。

投票方式選ばれたメニュー
多数決寿司
決選投票ピザ
勝ち抜き決選投票ラーメン
ボルダ投票焼肉
総当たり投票唐揚げ

見事にバラバラの結果となりました。

投票方法により最も好まれるメニューが変わる。つまり、完全な投票はないということです。

証明完了ですね。
ちなみにこの反例は数学者のジョン・パウロスによって考案された「パウロスの全員当選モデル」というものです。

 

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