問題は簡単なのに、証明に約350年以上かかった歴史的超難問フェルマーの最終定理。
その証明をわかりやすく解説します。
- 数学の歴史的超難問を解決した歴史に興味がある
- フェルマーの最終定理の証明に興味がある
フェルマーの最終定理とは?
フェルマーの最終定理の生みの親「ピエール・ド・フェルマー」。かなり性格が歪んだ人と言われていますが、彼はいったいどんな人物だったのでしょうか?この記事では、フェルマーの人物像やフェルマーの最終定理を発見するまでの背景について[…]
証明の歴史
フェルマーの最終定理は1995年、アンドリュー・ワイルズによって完全に証明されました。
しかし完全証明にたどり着くまでには、とても長い歴史があります。
1640年 フェルマー
\(n=4\)のときフェルマーの最終定理が成り立つことを証明しました。
※フェルマーが意図せず証明していたことを、オイラーが発見しました。
1753年 オイラー
\(n=3\)のときフェルマーの最終定理が成り立つことを証明しました。
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1823年 ソフィ・ジェルマン
\(p\)が素数で\(2p+1\)も素数であれば、\(n=p\)のときフェルマーの最終定理がおそらく成り立つことを主張しました。
ソフィ・ジェルマンはこの時代ではかなり希少な女性数学者です。女性は学校に行けなかったため、男性と偽って講義を受けていた、という逸話があります。
1825年 ディリクレとルジャンドル
\(n=5\)のときフェルマーの最終定理が成り立つことを証明しました。
1832年 ディリクレ
\(n=14\)のときフェルマーの最終定理が成り立つことを証明しました。
1839年 ラメ
\(n=7\)のときフェルマーの最終定理が成り立つことを証明しました。
ちなみに\(n=3\)が証明できれば、3の倍数全てで成り立つことになります。
\(3\)の倍数を\(3n\)と表す。(\(n\)は自然数)
\(x^{3n}+y^{3n}=z^{3n}\)
\((x^n)^3+(y^n)^3=(z^n)^3\)
\(x^n=X\)
\(y^n=Y\)
\(z^n=Z\)
とすると
\(X^3+Y^3=Z^3\)
\(X,Y,Z\)は自然数であり
\(x^3+y^3=z^3\)を満たす自然数\(x,y,z\)が無いことが証明されているため
\(x^{3n}+y^{3n}=z^{3n}\)を満たす自然数\(x,y,z\)も無いことがわかる。
つまり\(n\)が全ての素数に対して成り立つことが証明できれば、フェルマーの最終定理を証明したことになります。
しかし素数は無限にあります。
ワイルズの証明
歴史的数学者たちのバトンを受け継ぎ、ついに完全証明をしたワイルズの証明。
筆者も完全に理解できなかったため、ざっくりした流れを紹介します。
楕円曲線に変形する
まずはフェルマーの最終定理の方程式を楕円曲線に変形します。
\(x^n+y^n=z^n\)
両辺を\(z^n\)で割る。
\(\displaystyle\frac{x^n}{z^n}+\frac{y^n}{z^n}=1\)
\(\displaystyle \frac{x}{z}=X\) , \(\displaystyle \frac{y}{z}=Y\)とおく。
\(X^n+Y^n=1\)・・・①
①の式に\(n≧3\)を代入すると、楕円曲線になります。
楕円曲線には有理点が有限個であるという性質があります。
※有理数とは2つの整数\(a,b\)を用いて分数で表せる数のこと。
フライ曲線
フェルマーの最終定理が成り立たないと仮定すると、少なくとも1組の整数解が存在することになります。
その解を\(a,b,c\)とします。\(a,b,c\)はフェルマーの最終定理の解なので、以下のような特性を持ちます。
\(a^n+b^n=c^n\)
次に、この\(a,b,c\)を含むフライ曲線という楕円曲線について考えてみます。
\(y^2=x(x-a^n)(x+b^n)\)
このフライ曲線は\(a^n+b^n=c^n\)が\(abc≠0\)を満たす解をもつとき、モジュラー性を持ちません。
またフライ曲線は半安定です。
つまりフェルマーの最終定理が成り立たたないと仮定すると、フライ曲線は半安定であり、モジュラーではない楕円曲線ということになります。
谷村・志村予想
日本人の2名が以下の内容を主張しました。
ワイルズの証明
ワイルズが「半安定な楕円曲線に対して、谷村・志村予想が成り立つ」ことを証明しました。
これで「半安定な楕円曲線はモジュラーである」ことが言えます。
フライ曲線は「半安定であり、モジュラーではない楕円曲線」でした。
しかし半安定な楕円曲線はモジュラーであるはずです。
つまり「フライ曲線は存在しない」ことがわかりました。
フライ曲線は「\(x^n+y^n=z^n\)という方程式が、少なくとも1の解を持つことを前提とした曲線(\(n≧3\)のとき)」です。
フライ曲線が存在しなければ「\(x^n+y^n=z^n\)という方程式が解と持たない(\(n≧3\)のとき)」ことがわかります。
つまりフェルマーの最終定理が成り立つことになります。
ようやくフェルマーの最終定理を証明することができました。
ABC予想による証明
2020年4月に望月教授によって証明された「強いABC予想」があれば、フェルマーの最終定理を簡単に証明することができます。
まずは強いABC予想について簡単に説明します。
2と3は互いに素ですが、2と4は互いに素ではありません。
\(16<rad(7×9×16)^2\)
\(16<rad(7×3^2×2^4)^2\)
\(16<(7×3×2)^2\)
\(16<1764\)
フェルマーの最終定理の証明
まずはフェルマーの最終定理のおさらいです。
互いに素な自然数\((x,y,z)\)、自然数\(n≧3\)に対して、
\(x^n+y^n=z^n\)
が成り立つと仮定する。
強いABC予想に\((x^n,y^n,z^n)\)を代入する。
\(c<rad(abc)^2\)
\(z^n<rad(x^ny^nz^n)^2\)・・・①
\((x,y,z)\)は互いに素であるため
\(rad(x^ny^nz^n)^2=(xyz)^2\)・・・②
また
\(x<z\)
\(y<z\)
であることから
\(xyz<z^3\)・・・③
であることがわかる。
①、②、③を組み合わせると
\(z^n<(xyz)^2<(z^3)^2\)
\(z^n<z^6\)
であることが得られる。
従って
\(x^n+y^n=z^n\)
を満たす互いに素な自然数\((x,y,z)\)は\(n<6\)の場合にしか存在しないことが証明された。
次に互いに素でない自然数\((x,y,z)\)でも
\(x^n+y^n=z^n\)
を満たすのは\(n<6\)であることを示す。
\((x,y,z)\)が互いに素でない場合、共通の約数を持つため、以下のように表現することができる。
\(x=ms\)
\(y=mt\)
\(z=mv\)
※\((s,t,v)\)は互いに素である。
これらを方程式に代入する。
\({ms}^n+{mt}^n={mv}^n\)
両辺を\(m\)で割る。
\(s^n+t^n=v^n\)
\((s,t,v)\)が互いに素である場合、上記を満たす\((s,t,v)\)の組み合わせは\(n<6\)の場合にしか存在しないことが証明されている。
つまり\((x,y,z)\)が互いに素でない場合も
\(x^n+y^n=z^n\)
を満たすのは\(n<6\)であることが証明された。
これで全ての自然数に対して\(n>6\)の場合はフェルマーの最終定理が成り立つことを証明できた。
残りの\(n=3,4,5\)の場合はすでに証明されている。
フェルマーの最終定理を完全に証明できました。
参考文献
フェルマーの最終定理についてもっと知りたい方にオススメの文献です。
フェルマーの最終定理
この記事ではフェルマーの最終定理の証明について解説しましたが、フェルマーの最終定理の魅力はそれだけではありません。
350年の間、奮闘し続けた天才数学者たちの挫折と栄光がとてもドラマチックなんです。
この本は、ワイルズが完全証明するまでのストーリーが記されたドキュメンタリーです。
ストーリー重視の内容なので、中学生や高校生はもちろん、文系の方にもオススメできる本です。
数学ガール/フェルマーの最終定理
ワイルズの証明を完全に理解することはできませんが、概要を理解するために必要な知識が丁寧に解説されています。そのため、フェルマーの最終定理の証明をもっと理解するための入門書としてオススメです。
導入から全くフェルマーの最終定理に関係なさそうな話が続き、それらが最後の最後にフェルマーの最終定理に結び付くのは爽快でした。
フェルマーの最終定理の生みの親「ピエール・ド・フェルマー」。かなり性格が歪んだ人と言われていますが、彼はいったいどんな人物だったのでしょうか?この記事では、フェルマーの人物像やフェルマーの最終定理を発見するまでの背景について[…]